四月一日、増刷出来

『図書館の魔女』増刷が決まりました。

出来予定は掲題のとおり卯月朔日とのこと。……エイプリル・フール落ちではあるまいな。例によって少部数の放流になります、ご入手をお考えの方には注文予約をお勧めいたします。

エイプリル・フールには新聞、テレビ、ラジオをはじめ、マスコミがこぞって嘘をつくのが慣例になりました。積極的に嘘を吐いて口に糊する特殊な業態に身を置く覚悟でおりますので世間に流布する「嘘」にはいつも関心を払っています。ですがエイプリル・フールのネタについては読者、視聴者も慣れてきたこともあり、このところ切れのいいネタを見ません。

すでに伝説化した大法螺が懐かしく思い出されます。やはりイギリス BBC が一頭地を抜いていますね。50年代には有名な「スパゲッティの木」 の逸話があります。「暖冬とスパゲティゾウムシの駆除がうまくいったことの影響で、本年はスパゲティの大豊作が見込まれている」という解説の元に産地ティチーノ地方(スイス・イタリア国境付近)でスパゲティを収穫する様子が報じられた一件。栽培方法についての問い合わせが殺到したそうです。BBC の法螺といえば個人的には「ウェストミンスター宮殿のビッグ・ベンの時計が、老朽化・改修にともないデジタルになることに決まった」というニュースに衝撃を受けたものです。小、中学生の頃だったと思いますが、当時、時計メイカーに勤めていた父から聞かされたもので、一瞬信じてしまった。

フランスもエイプリル・フール (poisson d’avril)は好きみたいです。アンテヌ2が70年代に「公共の場所での喫煙が禁止になる」という「嘘」を報じた話はつとに知られており、これは35年経って本当のことになりました。まさに嘘から出た真。

ちょっと古い話ですが「イギリスがECに参加するので、以後はフランスでも車は左側通行になる」というのはフランス・アンテルのラジオ・ニュース。「世界の風力発電の影響で地球の自転が遅くなっていることが判明」なんてニュースもあった(フランス2)。エコロジーはネタになりやすいのか「巨大な水飲み鳥を建造してエネルギー源とする研究が進んでいる」というドキュメントとか(スイス・ラジオ・ロマンド)。

フランス国鉄も四月一日にはネタをかましてくるので有名で、駅構内の放送の声がシンプソンズのオメー(ホーマー)の声になっていたという話には笑った。構内放送は普段は女性(Simone Hérault という方)の声なのですが、それがオメー役の声優の声に差し替えられて、しかも「お客さん、鼻をほじっていてはだめですよ、こっちからは丸見えですよ」とかどうでもいいことまで言っている。

一方で日本のクオリティ・ペーパーズは四月馬鹿対応ではちょっと分が悪いですね。朝日新聞は「閣僚に外国人枠」とクールに決めたつもりが読者の叱責を買ったり(1999)、あるいは四月馬鹿企画に「これは四月馬鹿です」とご丁寧に注記しておいたり、つかずともよい嘘を無理については野暮に転んで味噌をつけている模様。毎日新聞にいたってはいい加減な英文記事を何年も配信していた(2008)として「毎日がエイプリル・フール」と扱き下ろされる体たらく。讀売新聞は毎日と並んで外電のネタ記事「地下倉庫から45年ぶりに四姉妹救出」を裏も取らずに掲載して慌てて取り下げる羽目になったことがありました (1990)。信じられる新聞など日本には東スポしかないというのは世上の常識ですね。(東スポだけは決して嘘は吐かない。「マドンナ、痔」とぶちあげた上で、折り返した向こう側に「……か?」と付け加える絶妙のバランス感覚で有名)

もう日本の新聞はへたに「小粋な嘘をついてやろう」などとは考えないで、さっぱり諦めた方が始末がいいかも知れない。四月一日には一面に「当紙は年中、嘘は一切つきませんので悪しからず」などと書いておいたら……いかがなものか。きつい洒落だと思ってしまう人が続出するかも知れない……

もっとも「本家」の BBC の方だって、最近では嘘の切れ味が鈍っており、さえない年が続いています。空飛ぶペンギンとか、シェイクスピアがフランス人だったとか、微妙なネタの連続で滑り芸っぽい感じになってきております。

近年では私が感心したのは『ニュー・メキシカン・サイエンス&リーズン(NMSR Reports, Vol. 4, No. 4, April 1998)』 の記事で、内容は「π(パイ)= 3 であるとする法案がアラバマ州議会で議決される」というもの。いえ、ゆとり教育にまつわる話ではなくてですね、アラバマ州議会は法案成立をもって州内では「π」は3であると定めることにした。なんとなれば「無謬の書、聖書にはっきりそう書いてある」ということ。これについて Nasa の技術者や数学者らの絶望と怨嗟の呻きが拡がっている……という記事。

実際、旧約聖書にあるんですね。列王記上 7:23 にいわく:縁から縁まで十キュビトであって、周囲は円形をなし、高さ五キュビトで、その周囲は綱をもって測ると三十キュビトであった。

法案を押し進めてきたロウソン州議会議員は言う「聖書を見ろ、31.4… キュビトなどと書いてあるか? いや書いていない。一読瞭然、30キュビトだ。以上!」ということで「π は3! 以上!」。これにミサイル防衛システム責任者バーグマン司令官は「せめて π を日々運用している人に諮問してくれれば良かったのに」と困惑を隠さない……  それに対し、法案成立に向けて手紙攻撃など運動を主導してきたソロモン協会を代表してロウソン議員は言う「我々は円周率を伝統的な価に回復したかったまでである、その価とは聖書によれば 3 である」

えーと、何の話だったっけ?

ああ、そうです、「π は3」じゃなかった。『図書館の魔女』3刷です。拙著をまず目に留められた書評家の方々はもちろん、Twitter で、読書メーターであるいはブクログで本作について語り合い、布教に努めて下さった読者の皆様方、品薄の拙著を掻き集めて販売してくださっている書店員様方、お陰様で増刷にこぎつけられました。

面識もない人から悪罵を投げつけられることも少なくない、このインターネッツであります。しかし私にとっては、そんな「面識もない方々」が拙著をもりたてようと奔走なさり、苦労なさってくれているというのが現実、まことに心強い限り。この上は皆様が好ましく思って下さった美質を保ち、さらに拙作をお手許に届け続けることで、御礼にかえさせていただきたく存じます。

しかしこれだけエイプリル・フールねたで引っ張ってしまうと、記事の信憑性を担保するのに若干の差し支えがあっただろうか。

出来予定は四月一日です。嘘ではありませんよ、嘘では。

だいたい私は産まれてこの方、いちども嘘を吐いた事がありません。

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