『図書館の魔女 烏の伝言』2015年正月末、発売予定

かねて『売国奴の伝言(仮題)』と呼ばれていた拙作のタイトルが変更になり「仮題」が取れました。掲題の通り『図書館の魔女 烏の伝言』となりました。「とりのでんごん」ではありませんよ、「からすのつてこと」です。

講談社ノベルスにはまだ訂正がありませんが、版元ドットコムでは書名変更がアナウンスされました。アマゾンでも旧題売国奴の伝言から新頁にリファーされています。暫定刊行日はサイトにより1月27日や28日と出入りがありますが一月中を死守する方針で進めていただいています。値段その他の情報にも変化があるかと思われますので確定情報は講談社発表をお待ち下さい。進行は順調、著者はすでにカバーデザインまで見ております。

さて、このタイトル。おそらく少なからぬ読者の方が「とりのでんごん、ありますか?」とおしかけると思われます、書店員各位の柔軟な対応が求められております。なにとぞよろしくお願いします。

案外読み間違っている

タイトルの読み違いはよくあるものです。埴谷雄高の『死靈』なども、いまもって「しりょう」と読んでいる向きが多いのではないかな。自分のことで言えば私は川端の『山の音』を「やまのね」とずっと覚えていたものです。

非常勤に出ていた某大でフランス語教員の間で伝説になっていたのが『チボ一家の人々』。よくご覧になって下さい、サンセリフ系のフォントでご覧になっている方には判らないかも知れませんね。これ「ちぼいっかのひとびと」と書いてあるんですね。とある学生のレポートに出てきた表記で、この学生はデュ・ガールの『チボー家の人々』をテーマに選んでおきながら、とうとう最後まで「ちぼいっか」と書き切って走り抜けたのでした。「ちぼ」っていうのは「巾着切り」のことですから、「ちぼいっか」じゃ「掏摸を生業にしている一家」の話みたいで、とんだファミリービジネスだ、これではジャック・チボーも浮かばれない。

このエピソードの恐ろしい点は、件の学生が「チボー家(ちぼーけ)」という文字列を一度でも「縦組みで見ていた」としたならばこの勘違いは恐らく生じなかったということにあります。件の学生は恐らくはただの一度も「チボー家(ちぼーけ)」という文字列を縦には見なかった、ということなのです…… 担当指導教官は膝から頽れていた。この子、原文はおろか、訳書の一冊すらとうとう手に取らずにレポートを書き切ったんだ……

同大では『脂肪の魂』というタイトルも拝見できました。どんなたましいだ。

覚え違いタイトル集

有名な話ですが、福井県立図書館のリファレンス事例「覚え違いタイトル集」。どうでしょう。リファレンス・カウンターの対応力も求められています。『ゴリラ爺さん』(バルザック)、『へんたい』(カフカ)あたりは図書館員もつい苦笑が漏れるでしょうが、この辺の対応は難しくなさそうです。かたや、「秘密の関係」という本を探していると言われて『ないしょのおともだち』(ドノフリオ/マクリントック)に辿りつくのには玄人のノウハウが要りそうだ。 「白い目と黒い服」 という情報から「黒い目と茶色の目」『徳富蘆花集 第11巻』徳富蘆花に辿りつくというのも素人には難しいだろう、びたいち合っていない。

面白いのはうろ覚えのタイトルにおいて、しばしば人は元の数字を割り引いてしまう傾向があるということ。

「人は見た目が7割」 →『人は見た目が9割』竹内一郎
「あなたの体は三か月前に食べたものでできている」 →『あなたは半年前に食べたものでできている』村山彩
「一万歩の男」 →『四千万歩の男』1~5 井上ひさし
「七人のおうさま。黄色い本でとても有名だと思う」→ 『王さまと九人のきょうだい』君島久子

私が上の覚え違いタイトル一覧の中でいちばん笑ってしまったのは、朝井リョウ『おい桐島、お前部活やめるのか?』っていうやつですね。本人に訊いちゃったよ、と。いや、そいつだけは本編に出てこないんだよ、と。朝井リョウの作意を全否定。

変更の事由

さて今回のタイトル変更の理由は一つに「図書館の魔女」のシリーズだということをはっきりうたってしまおうということと、二つに今後も続いていく(続いていくのです)さらなる続々巻のサブタイトルと「売国奴の伝言」にやや統一性が欠けるという判断があったこと、そして三つに仮題にあった「売国奴」の語感がいささか仰々しく、そこに無用な偏向の香りがたってしまわないかとの危惧があり、編集部・販売部との相談のうえ、上掲の標題に改めました。

「売国奴」という言葉の響きの強さは惜しまれましたが、こんにちの世上ではこの一語は使用域が限られるというか、一定層が特に声高に使う語彙になっています。愛国クラスタというか。件の一語に科はありませんが、ちょっと距離をとっておこうかという配慮です。

もともと人を指して「奴」と呼ぶのは「罵倒語」相当です。どうしてもちょっと剣呑になります。

匈奴、剣奴、農奴に賤奴、守銭奴、売国奴に冷奴。

結果、ちょっとあっさりしたタイトルになりましたがいいんじゃないでしょうか。私は名前というのは基本的にあっさりしていた方がよいものだと思っており、たとえば私が豆腐屋を開店したら「高田豆腐」という店名にすると思います。

新年一月末吉日の刊行予定です『図書館の魔女 烏の伝言』。湯奴など召し上がって体を暖めてお待ちあれ。

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