『烏の伝言』正誤

『図書館の魔女 烏の伝言』は目下第3刷が流布していることと思います。それにつき、これまでの版に幾つか訂正すべき誤記がありました。いずれも著者の入稿原稿に由来するものです。

拙著には、仕事の極めて丁寧な校閲者をつけてもらっております。その読み込みの精密なこと、知識量と調査能力の高さについては常々驚かされたものです。講談社の既刊三冊でも、角川の雑誌連載でも、校閲者の指摘に由来する、物語のディテールに拘わる重要な変更が施されております。この場を借りて改めて、その丁寧な仕事に尊敬と感謝を申し述べたい。有り難う御座いました。

さて、それでも彼らの炯眼をも潜り抜けてしまった著者の誤りがわずかに残ってしまいました。

1)347頁11行:「ワカンら」→「ナオーら」
2)517頁14行:「終結」→「集結」

以上の二箇所です。

前者は自分で気が付いたものです。現版の表現で想定される事態は厳密には起こっていません。著者の誤りです。

後者は読者の方からの指摘が Twitter にてありました(どなたのご指摘だったか、いま追跡できません)。よくあるものですが、明白な誤記です。指摘されるまで気が付きませんでした。御指摘に感謝します。

『烏の伝言』ははなはだ緩慢なペースではありますがまだ増刷が続いておりますので、これらについては、おって改版時に訂正を施す所存であり、すでに担当編集氏あて、望みを伝えてあります。現行の版をお持ちの方には、上の誤記につきお詫び申し上げます。

他に二点、別の御指摘についてお応えします。

可愛そう

3)本文中三箇所にわたって「可愛そう」という表記がありますが、これにつき「『可哀相』ないし『可哀想』とすべきところの誤植である」という指摘がありました。まず第一に、これは誤植ないし校正もれではなく著者稿に由来する積極的な表記です。これに関しては現行の版のままの表記を保とうと存じます。

その根拠は『大辞泉』、『大辞林』などの説明によれば:

a) 「可哀相」ならびに「可哀想」はいずれも当て字。
b) 語構成要素の「かわいい」に「可愛」とするのも同じく当て字。
c) 語源の「かわゆい<かははゆし<かほはゆし」に想定される用字は「顔映ゆし」。

ということでいずれも当て字ということです。同じ当て字ならば、中でも「かわいそう」という語の今日常用の語義「哀れである」からして「哀」の一字を使うのがベターだという判断もあるでしょう。しかし、もともと文語「愛(いと)し」の一語には「かわいい、いとしい」という語義の他に「かわいそうだ、ふびんだ」という語義があります。つまり「愛」の一字には「哀」と同様に「かわいそうだ、ふびんだ」という意味をチャージ出来るものと考えます。

じっさい「哀れである」というむねの「可愛そう」という表記については累代の用例があり、青空文庫で検索した限りでも菊池寛、大宰、有島、和辻、西田幾多郎、宮本百合子などの用例が簡単に見つかります。特に大宰と夢野久作が多用しているようです。上の著者らの権威にすがろうという話ではありませんが、積極的に「可愛そう」という表記を保つ文学的な意味はあろうかと考えました。

大切ない

4)「そこが大切ない[#「大切ない」に傍点]こと」という表現につき「大切な」の誤記ではないかという指摘がありました。『大辞泉』、『大辞林』などによれば(取り分けてこの二辞書を引くのは単に私のコンピュータに常時入っているからです)「大切ない」は、それぞれ「非常に大事である」、「とても大切である」の意と説いています。

語尾の「ない」は否定の意味ではなく、「はなはだしく」を表す接尾辞です。類例として「切ない」、「せわしない」、「いたいけない」、「はしたない」、「満遍ない」などがあると上記二著は説きます。「いたいけない」などは今回の「大切ない」同様の「誤解」が生じる余地があるでしょうか。

より安全で平易な「大切な」を採らなかったのは、作中の話者のキャラクター設定に依ってのことです。本作前半には「べらんめぇ口調にマタギ言葉(作中の『やまことば』)の混淆」の遣い手たちと、もとより詞藻豊かな文語を操る軍人たちの間に、ことさらに古形に寄せて話している人物と、つごう三種の話語が設定されています。すべて演出の一環です。ですから意図して上の表現にも傍点を付してあります。したがってここでも現行の表記を保ちます。

ご指摘に感謝します

以上、目下寄せられている限りの御指摘にお応えするとともに、明らかな間違いについてはお詫びして、増刷の機会に恵まれれば必要に応じて訂正する所存です。

ほかにお気付きの点などあればお知らせ下されば幸いです。読者諸氏からの御指摘は大変ありがたいものです、どうしてもこちらで気が付かない誤りというものはありますから。そしてもちろん間違いなら正すべきです、そのために、厚かましながら御協力願えればと念じております。

そもそも、一言一句に御指摘が賜われるということについては、そんな風に丁寧に読んで頂けていることだけでも著者としては欣快の至りです。苦言もまた評価の一つと、厳しく、かつ嬉しく受け取っております。

著者としても一言一句丁寧に書き継いでいきますので、その都度ご叱責頂ければありがたく存じます。ご指摘くださった皆様に御礼申し上げます。

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